2026年9月14日時点(提出は9月末まで受付中/数値は暫定)

やり切った123名は、
「勉強より楽しい」と言っている。

高2英語表現II 夏季休暇中課題「Project 2 Cross-Cultural Communication」。 本校初の本格的な探究型課題でした。振り返りシート218件から、この経験を普段の授業とどうつなぐかを考えます。

対象 高2 A〜G組 306名 回答 218件/123名 回答期間 7月23日〜9月7日

このレポートの結論

  1. やった生徒には、はっきり効果が出た。 不安が「強い」生徒は53%から29%へ半減し、「伝わった」生徒は47%から68%へ増えた。効果が最も大きかったのは、英語を話した経験がゼロの生徒。
  2. ただし、発表の中身は2回目でも変わらなかった。 自信は育ったが、解決策の具体性は伸びていない。これは生徒の力不足ではなく、「どこまでやれば十分か」を示さなかった課題設計の問題。
  3. まだ6割が出していない。原因は手続きの難しさではない。 予約は1学期に全員が経験済み。障害は「何をどこまでやれば完成なのかが、やる前に見えなかった」こと。
  4. 早く動いた生徒とそうでない生徒の差は、熱意ではなかった。 書いた量はほぼ同じ。違ったのは不安の低さで、しかも一度動き出せば95%が完走している。問題は最初の一歩のところにある。
  5. 最大の成果は、生徒が自分の英語の弱点を自分の言葉で語り始めたこと。 「日本語で考えてから英語に変換するのが遅い」「複雑な構文を使いすぎて聞き直された」。普段の授業では出てこない自己認識が、大量に出ている。
  6. 次は冬休み。今回の問いは、3か月後に答え合わせができる。 同じ生徒に同じ形式の課題を出せるため、設計を変えた効果をそのまま測れる。2学期中に仕込むことと、冬休みに測る指標を最後にまとめた。
1

この課題は、何が新しかったのか

要するに

問題集とは別物の課題を、高2はほぼ初めてやった。

1学期に校内で実施した第1回は、フリートークの体験でした。今回求めたのは、講師の国をリサーチし、社会課題を1つ選び、原因を分析し、解決策を仮定法で提案し、その場で返ってくる反論に英語で答えることです。

正解がなく、終わりが自分で決められず、採点基準が自明でない。こういう課題を本校の高2はほぼ初めて経験しました。以下のデータは、初めての探究型課題に対する学年の反応として読んでください。

2

やり切った生徒は、何を感じたか

要するに

難しさは減っていない。なのに「楽しい」が12ポイント増えた。

感想の内訳:「楽しかった」は増え、「難しかった」は減っていない 感想欄の記述を分類。各回の回答者に占める割合。重複あり。縦軸は20〜55%の範囲で表示しています。 20% 30% 40% 50% 1回目 2回目 36.4% 48.5% 楽しかった・自信がついた 28.1% 30.9% 難しかった・緊張した
2回目で「楽しかった」は 36.4% → 48.5%。いっぽう「難しかった・緊張した」は 28.1% → 30.9% で、むしろ微増しています。

ふつう「楽しくなった」は「できるようになった=楽になった」と一緒に起こります。今回は違います。難しさはそのままで、楽しさだけが増えている。これは、生徒が「できるようになった」のではなく「意味があると感じ始めた」ときに起こる変化です。暗記型の課題では、まず起こりません。

黄色は、注目していただきたい箇所です。

英語を単に勉強するより楽しい
最初は英語で25分間話すことに少し不安があったが、実際に話してみると自分の考えを伝えることができてよかった。講師から質問や意見をもらうことで、フィリピンの社会問題についてさらに深く考えることもできた。英語で自分の意見を伝え、相手と意見交換することの楽しさを感じた。
先生がとても陽気でやりやすかった。拍手をするなどたくさんリアクションをしてくれたおかげで楽しめたのはもちろん、鋭く細かく指摘をしてくれたのも良かった。レッスンというより会話をしている感じでとてもいい時間だった。
またやります

やる前に価値を説明されて納得した生徒は、おそらく一人もいません。価値は、やった後に生まれています。内発的動機は事前の説得で作るものではなく、活動した結果として形成されるものだからです。

3

不安が減り、「伝わった」が増えた

要するに

2回やった生徒は、怖さが半分に減り、手応えが2割増えた。

実施前の不安が「強い」(4〜5)と答えた生徒

1回目53%
2回目29%

▼ 下がった

「よく伝わった」(4〜5)と答えた生徒

1回目47%
2回目68%

▲ 上がった

実施前の不安(5=とても不安、1=不安なし) 1回目 n=115/2回目 n=76。数字は人数。 1回目 9 11 34 27 34 2回目 8 19 27 15 8 1 2 3 4 5
不安「5」の生徒が34人から8人へ。「1〜2」の生徒は20人から27人へ増えています。
言いたかったことが伝わった実感(5=よく伝わった、1=伝わらなかった) 1回目 n=115/2回目 n=79。数字は人数。 1回目 18 40 45 9 2回目 5 18 42 12 1 2 3 4 5
低評価「1〜2」が21人から7人へ減りました。回答者数が違うため、割合では 47% → 68% です。

統計的にも有意です(不安 p < .001、伝達実感 p = .012、Wilcoxon符号順位検定)。ただし不安の減り方のほうが、手応えの伸びよりずっと大きい(効果量 d = −0.69 対 0.31)。つまり「怖くなくなった」が先に来ていて、「伝わるようになった」はこれからです。

同じ生徒を追いかけた変化 2回とも回答した生徒。不安 n=74、伝達実感 n=76。 不安 下がった 41人 変わらず 28人 伝わった実感 上がった 31人 変わらず 32人 下がった 13人
−0.90

いちばん不安が下がったのは、
英語を話した経験がゼロだった生徒。

経験20回以上の層(−0.55)を上回りました。この課題は、最も必要としている生徒に最もよく効いています。

ただし、発表の中身は2回目でも変わっていない

解決策に何が書かれていたか 全218件に対する割合。複数該当あり。 教育に関する言及 28.9% 技術・ツールの活用 27.1% 政府・政策一般への言及 18.8% 他国の成功例を応用 8.3% 記述が10字以下だった 29.8%
解決策の記述量は 26.3字 → 29.9字(p = .54、変化なし)。課題プリントで示した「他国の成功例を応用する」型を使ったのは8.3%だけでした。

自信は育った。中身は育っていない。約3割が「教育を行う」「経済的余裕を作る」といった10字以下の記述で、解決策というより願望です。これは生徒の力不足ではなく、どこまで掘れば十分なのかを示さなかった課題設計の問題です。

4

生徒の声は、普段の授業に何を問うているか

要するに

生徒は、普段の授業では気づけないことに気づいている。

振り返り記述にあらわれた学び 218件を内容で分類。重複あり。全体に占める割合。 英語力の不足への気づき 39.4% 自信・楽しさ 43.6% 準備・調査の甘さ 17.4% ネット情報と現実のズレ 12.4% 伝える工夫の発見 13.3% 日本の前提が通じない 9.2% 対話することの価値 7.8%

問い1 読み書きで使える文法は、話すときにも使えているか

日本での英語教育では英語を見て日本語へ変換する作業が多く、言いたいことを日本語で考えてから英語へ変換するスピードが遅かったり、できなかったりで、練習が必要だと感じた。
普段はじっくり考えながら使う英文法を、半無意識下で処理する難しさを感じた。
関係代名詞や後置修飾を使いすぎたのと自分が話すのが遅かったからか、聞き直されることがいくつかあった。
フリートークでは難しい文法を使わずに簡単な中1英文で会話ができた。中1の英文をよりすらすらできるようにしたほうがよい

これは生徒によるカリキュラム評価です。読解・作文では使えている知識が、発話では使えない。しかも複雑な構文を使おうとすることが、かえって伝達を妨げている。問題集を何冊解いても出てこない指摘です。

問い2 原稿を書かせる指導は、話す力を育てているか

あらかじめ作った文章を思い出してやろうとすると逆に詰まってしまっていて、正直フリートークの時のほうがよく話せていた。
書くことができてもメモだけだとうまく言えなかった。
事前の準備ですべての会話を考えておくことは不可能なので、その場で英語を即座に考える反射神経が必要。

原稿を書いて読み上げるスピーチと、その場で応答する会話は別の能力です。今の授業はどちらを鍛えているのか、点検する価値があります。

問い3 「調べて発表する」を、どこまで検証させているか

ネットで調べた時には教員不足だと書かれていたが、それは間違いだった。実際には教員をやりたい人はいるが、学校が適切な給料を支払えないため、経済的な理由から教職を諦める人が多いとのこと。
プレゼン内容はネットで簡単に調べた内容をそのまま使ったものだったのでファクトチェックが十分に行えておらず、指摘されたときに下調べが足りずうまく答えられなかった。
一番印象に残っているのは、「確かにその現状は存在しているね、だけどその情報はどこから得たもの?」と聞かれたこと。

教員が「出典を確かめなさい」と言っても届かないことが、当事者に一度問われるだけで届いています。情報リテラシー教育の教材として、これ以上のものはありません。

問い4 生徒はどこまで「日本の外」から物を見られているか

他国の社会問題を考えるとき、基本的に日本の環境をもとに考えてしまうので、ほかの国に対しての解決策が論理的に飛躍していることがある。
今回のプレゼンでは電車を主に考えていたが、フィリピンでは電車が時間通りに来ないため、そもそも移動の選択肢に入らないそうだ。

講師からも同じ趣旨が返っています。「フィリピンの家庭は6〜7人のことが多く、日本のような核家族の文化を活かした軽自動車は多くの人を乗せるのに適していない」「全世帯にWi-Fiが普及していないので通信環境の整備が先」。提案が日本の前提で設計され、そこを突かれる。この課題でしか起きない学習です。

5

提出状況と、その読み方

要するに

まだ6割が出していない。原因は、やり方ではなく「完成像が見えなかった」こと。

9月初めに「遅れてもよいのできちんとやって出すこと」と呼びかけ、9月末まで受付中です。以下は9月14日時点の暫定値です。

2回とも提出 94人 1回だけ提出 29人 まだ提出なし 183人
1つの点が1人。学年306名の内訳(9月14日時点)。
提出状況(9月14日時点)人数学年比
2回とも提出した9430.7%
1回だけ提出した299.5%
まだ提出していない18359.8%
学年計306100%
クラス別の提出人数 各クラスの在籍はおよそ44名。灰色の残りが未提出。 1回目2回目 A組 19人 16人 B組 16人 12人 C組 16人 12人 D組 21人 16人 E組 20人 15人 F組 13人 13人 G組 16人 12人
クラス間の差は最大で8人。特定のクラスの問題ではありません。

手続きが難しかったわけではない

予約の取り方は1学期の授業で全員が経験済み。パスワード等の不具合にも夏休み中に対応しました。工程が障害になったとは考えにくい。

残る説明は「何をどこまでやれば完成なのかが、やる前に見えなかった」ことです。課題プリントのモデルエッセイは完成品であって、そこに至る道筋ではありません。そのうえ「皆さんのcreativityに期待します」と書いてある。自由度が高い課題ほど、着手前に立ち止まるコストが上がります。

もう一点。この課題は、やる前に価値が見えない構造でした。やった生徒は楽しいと言っている。しかしその情報は、やっていない生徒には届いていません。「やってみれば分かる」は正しいのですが、やってみるところまで運ぶ仕掛けとセットでなければ機能しません。

9月末の集計が、次の設計の判断材料になります

9月1日時点で123名だったものが、呼びかけとシルバーウィークを経て月末にいくつになるか。この差分が「締切後の再アナウンスにどれだけ反応があるか」の実測値です。

大きく増えるなら、生徒は「やる気がなかった」のではなく「きっかけがなかった」ことになる。増えないなら、課題そのものの設計に手を入れる必要がある。どちらに転んでも、冬休みの課題に直接使えます。

6

早く動いた生徒は、何が違ったか

要するに

差は熱意ではない。そして一度動き出せば、ほぼ完走する。

1回目を8月24日までに提出した22名と、8月25日以降に提出した99名を比べました。

振り返りの記述量(1回目)

早く動いた22名121字
終盤に動いた99名133字

ほぼ同じ。早く動いた生徒が特別まじめだったわけではない。

実施前の不安(5段階の平均)

早く動いた22名3.00
終盤に動いた99名3.69

早く動いた生徒のほうが明確に低い(p = .046)。

2回目まで到達した割合

早く動いた22名95%
終盤に動いた99名74%

一度動き出した生徒は、ほぼ最後までやり切っている。

記述量が変わらないことが重要です。早く動いた生徒と遅かった生徒の差は、熱心さではありません。書いた量は同じなのに、動き出す時期だけが違った。そして一度動けば95%が完走している。つまり問題は最初の一歩のところにあります。

不安が着手を妨げた、という仮説

唯一はっきり差が出たのが不安の低さでした。早期群 3.00 に対して終盤群 3.69。高不安(4〜5)の割合も 40% 対 56%。不安が高い生徒ほど後回しにした、という読み方は自然です。

ただし、この解釈には2つ注意が要ります。

1回目の提出時期不安の平均人数
〜8月24日3.0020
8月25日〜30日3.9344
8月31日以降3.4951

ひとつ。きれいな坂道になっていません。提出日と不安の相関は r = 0.10 で有意差なし。「不安が高いほど遅れる」のではなく、「不安が低い一部の生徒だけが早く動けた」という構造に見えます。

ふたつ。この不安は事後の回想です。振り返りシートで「実施前に不安がありましたか」と、レッスンが終わってから聞いています。うまくいった生徒は不安を低く思い出しやすい。実際、早期群は伝達実感も高い(3.70 対 3.26)ので、この交絡は無視できません。

したがって現時点では、「不安が着手を妨げた」は検証に値する仮説であって、確定した原因ではありません。ただし、終盤に動いた高不安の生徒54名が挙げた理由は「1対1で困ったときに助けがない」が24名(44%)で突出しており、仮説を支持する材料はあります。冬休みの課題で、実施前に不安を聞けば決着します。

7

冬休みに試せる、4つの設計案

要するに

直すべきは生徒ではなく、課題の設計。教員の負担を増やさない4案。

いずれも次回の課題からそのまま使えます。全部を一度に変えると何が効いたか分からなくなるので、採るのは1〜2案に絞るのが得策です。

A

完成像を、最初に見せる

根拠:初めての探究課題で、どこまでやれば十分かの基準がなかった。

モデルエッセイに加えて「この水準なら合格」「これでは不足」の実例を2〜3本並べる。今回の123名の記述がそのまま使えます。完成品のモデルより、同級生の実物のほうが「自分にもできそうだ」に直結します。

B

いきなりボス戦にしない

根拠:リサーチ・課題選定・原因分析・解決策・英語発表・反論対応を一度に要求していた。

冬休みに入る前に「講師の国の課題を1つ、1文で書く」だけ。年内に「解決策を3行で」。年明けに本番。前の段階の成果物が次の材料になるので、生徒の総作業量は増えません。締切が複数あればTeamsが自動でリマインドを出すため、教員の追加作業もほぼ不要です。

C

評価を、完遂ではなく「改善」に向ける

根拠:自信は伸びたが、内容の質は2回目でも変わらなかった。

「2回やったら満点」だと、とりあえず25分しゃべって終わる生徒が増えます。1回目で指摘された点を2回目でどう直したかに配点する。振り返りシートに「指摘されて答えられなかったこと」の欄を1つ足すだけで成立します。

D

ゲーミフィケーションを、本気で検討する

根拠:やる前に価値が見えない課題では、外的なきっかけの設計が有効。

ポイントやバッジより効きそうなのは進捗の可視化です。「A組 12/44 完了」というクラス別カウンターが休み中に見えるだけで、生徒の「みんなやってないんじゃないか」という推測を崩せます。校内にはEnglish QuestやGreen World LMSの蓄積があり、仕組みは流用できます。

8

次は冬休み。3か月後に答え合わせができる

要するに

同じ生徒に同じ形式で出せる。設計を変えた効果が、そのまま測れる。

問題集は「やることが明確で、終わりが見え、採点基準が自明」という条件を全部そろえています。今回の課題はそのどれも持っていませんでした。それでも123名が取り組み、不安が有意に下がり、暗記型の課題では絶対に起きない学びが生まれています。そして「勉強より楽しい」という言葉が出てきました。普段の授業では、まず聞かない言葉です。

この課題の最大の成果は、
提出率でも、不安の数値でもない。
生徒が、自分の英語の何が足りないかを
自分の言葉で語り始めたこと
です。

「日本語で考えてから英語に変換するスピードが遅い」「複雑な構文を使いすぎて聞き直された」「原稿を思い出そうとすると逆に詰まる」。これらは教員が指摘しても入っていかない種類の自己認識です。一度こういう経験をした生徒は、普段の授業の受け方が変わります。文法演習が何のためにあるのかを、自分の必要から理解するからです。

2学期と冬休みにも同種の課題を予定しています。つまりこれは単発の実施記録ではなく、次の設計にすぐ使える中間報告です。しかも次回は同じ生徒に、同じ形式で出せます。学年が変われば「集団が違うから」で説明がついてしまいますが、同一集団なら提出率が動いた分は設計の効果です。今回見つかった仮説は、来年度ではなく3か月後に検証できます。

2学期中に仕込むこと

冬休みの課題で、測っておきたい3つ

検討すべきこと

2学期中に決めること

  1. サバイバル表現を帯活動に入れるか。入れるなら、どの表現をいくつ扱うか。
  2. 生徒が挙げた「問い1〜4」を、英語科の授業点検の項目として共有するか。

冬休みの課題設計

  1. A〜Dのどの案を採るか(効果を切り分けるため1〜2案に絞る)。
  2. 締切を何本に分けるか。

測定

  1. 実施前の不安・着手記録・未提出理由の3点を取るか。取るなら誰がいつ実施するか。
  2. 9月末の最終集計を、次回設計の判断材料として正式に扱うか。
9

分析上の注意