2026年9月14日時点(提出は9月末まで受付中/数値は暫定)
高2英語表現II 夏季休暇中課題「Project 2 Cross-Cultural Communication」。 本校初の本格的な探究型課題でした。振り返りシート218件から、この経験を普段の授業とどうつなぐかを考えます。
問題集とは別物の課題を、高2はほぼ初めてやった。
1学期に校内で実施した第1回は、フリートークの体験でした。今回求めたのは、講師の国をリサーチし、社会課題を1つ選び、原因を分析し、解決策を仮定法で提案し、その場で返ってくる反論に英語で答えることです。
正解がなく、終わりが自分で決められず、採点基準が自明でない。こういう課題を本校の高2はほぼ初めて経験しました。以下のデータは、初めての探究型課題に対する学年の反応として読んでください。
難しさは減っていない。なのに「楽しい」が12ポイント増えた。
ふつう「楽しくなった」は「できるようになった=楽になった」と一緒に起こります。今回は違います。難しさはそのままで、楽しさだけが増えている。これは、生徒が「できるようになった」のではなく「意味があると感じ始めた」ときに起こる変化です。暗記型の課題では、まず起こりません。
黄色は、注目していただきたい箇所です。
英語を単に勉強するより楽しい。
最初は英語で25分間話すことに少し不安があったが、実際に話してみると自分の考えを伝えることができてよかった。講師から質問や意見をもらうことで、フィリピンの社会問題についてさらに深く考えることもできた。英語で自分の意見を伝え、相手と意見交換することの楽しさを感じた。
先生がとても陽気でやりやすかった。拍手をするなどたくさんリアクションをしてくれたおかげで楽しめたのはもちろん、鋭く細かく指摘をしてくれたのも良かった。レッスンというより会話をしている感じでとてもいい時間だった。
またやります!
やる前に価値を説明されて納得した生徒は、おそらく一人もいません。価値は、やった後に生まれています。内発的動機は事前の説得で作るものではなく、活動した結果として形成されるものだからです。
2回やった生徒は、怖さが半分に減り、手応えが2割増えた。
実施前の不安が「強い」(4〜5)と答えた生徒
▼ 下がった
「よく伝わった」(4〜5)と答えた生徒
▲ 上がった
統計的にも有意です(不安 p < .001、伝達実感 p = .012、Wilcoxon符号順位検定)。ただし不安の減り方のほうが、手応えの伸びよりずっと大きい(効果量 d = −0.69 対 0.31)。つまり「怖くなくなった」が先に来ていて、「伝わるようになった」はこれからです。
いちばん不安が下がったのは、
英語を話した経験がゼロだった生徒。
経験20回以上の層(−0.55)を上回りました。この課題は、最も必要としている生徒に最もよく効いています。
自信は育った。中身は育っていない。約3割が「教育を行う」「経済的余裕を作る」といった10字以下の記述で、解決策というより願望です。これは生徒の力不足ではなく、どこまで掘れば十分なのかを示さなかった課題設計の問題です。
生徒は、普段の授業では気づけないことに気づいている。
日本での英語教育では英語を見て日本語へ変換する作業が多く、言いたいことを日本語で考えてから英語へ変換するスピードが遅かったり、できなかったりで、練習が必要だと感じた。
普段はじっくり考えながら使う英文法を、半無意識下で処理する難しさを感じた。
関係代名詞や後置修飾を使いすぎたのと自分が話すのが遅かったからか、聞き直されることがいくつかあった。
フリートークでは難しい文法を使わずに簡単な中1英文で会話ができた。中1の英文をよりすらすらできるようにしたほうがよい。
これは生徒によるカリキュラム評価です。読解・作文では使えている知識が、発話では使えない。しかも複雑な構文を使おうとすることが、かえって伝達を妨げている。問題集を何冊解いても出てこない指摘です。
あらかじめ作った文章を思い出してやろうとすると逆に詰まってしまっていて、正直フリートークの時のほうがよく話せていた。
書くことができてもメモだけだとうまく言えなかった。
事前の準備ですべての会話を考えておくことは不可能なので、その場で英語を即座に考える反射神経が必要。
原稿を書いて読み上げるスピーチと、その場で応答する会話は別の能力です。今の授業はどちらを鍛えているのか、点検する価値があります。
ネットで調べた時には教員不足だと書かれていたが、それは間違いだった。実際には教員をやりたい人はいるが、学校が適切な給料を支払えないため、経済的な理由から教職を諦める人が多いとのこと。
プレゼン内容はネットで簡単に調べた内容をそのまま使ったものだったのでファクトチェックが十分に行えておらず、指摘されたときに下調べが足りずうまく答えられなかった。
一番印象に残っているのは、「確かにその現状は存在しているね、だけどその情報はどこから得たもの?」と聞かれたこと。
教員が「出典を確かめなさい」と言っても届かないことが、当事者に一度問われるだけで届いています。情報リテラシー教育の教材として、これ以上のものはありません。
他国の社会問題を考えるとき、基本的に日本の環境をもとに考えてしまうので、ほかの国に対しての解決策が論理的に飛躍していることがある。
今回のプレゼンでは電車を主に考えていたが、フィリピンでは電車が時間通りに来ないため、そもそも移動の選択肢に入らないそうだ。
講師からも同じ趣旨が返っています。「フィリピンの家庭は6〜7人のことが多く、日本のような核家族の文化を活かした軽自動車は多くの人を乗せるのに適していない」「全世帯にWi-Fiが普及していないので通信環境の整備が先」。提案が日本の前提で設計され、そこを突かれる。この課題でしか起きない学習です。
まだ6割が出していない。原因は、やり方ではなく「完成像が見えなかった」こと。
9月初めに「遅れてもよいのできちんとやって出すこと」と呼びかけ、9月末まで受付中です。以下は9月14日時点の暫定値です。
| 提出状況(9月14日時点) | 人数 | 学年比 |
|---|---|---|
| 2回とも提出した | 94 | 30.7% |
| 1回だけ提出した | 29 | 9.5% |
| まだ提出していない | 183 | 59.8% |
| 学年計 | 306 | 100% |
予約の取り方は1学期の授業で全員が経験済み。パスワード等の不具合にも夏休み中に対応しました。工程が障害になったとは考えにくい。
残る説明は「何をどこまでやれば完成なのかが、やる前に見えなかった」ことです。課題プリントのモデルエッセイは完成品であって、そこに至る道筋ではありません。そのうえ「皆さんのcreativityに期待します」と書いてある。自由度が高い課題ほど、着手前に立ち止まるコストが上がります。
もう一点。この課題は、やる前に価値が見えない構造でした。やった生徒は楽しいと言っている。しかしその情報は、やっていない生徒には届いていません。「やってみれば分かる」は正しいのですが、やってみるところまで運ぶ仕掛けとセットでなければ機能しません。
9月1日時点で123名だったものが、呼びかけとシルバーウィークを経て月末にいくつになるか。この差分が「締切後の再アナウンスにどれだけ反応があるか」の実測値です。
大きく増えるなら、生徒は「やる気がなかった」のではなく「きっかけがなかった」ことになる。増えないなら、課題そのものの設計に手を入れる必要がある。どちらに転んでも、冬休みの課題に直接使えます。
差は熱意ではない。そして一度動き出せば、ほぼ完走する。
1回目を8月24日までに提出した22名と、8月25日以降に提出した99名を比べました。
振り返りの記述量(1回目)
ほぼ同じ。早く動いた生徒が特別まじめだったわけではない。
実施前の不安(5段階の平均)
早く動いた生徒のほうが明確に低い(p = .046)。
2回目まで到達した割合
一度動き出した生徒は、ほぼ最後までやり切っている。
記述量が変わらないことが重要です。早く動いた生徒と遅かった生徒の差は、熱心さではありません。書いた量は同じなのに、動き出す時期だけが違った。そして一度動けば95%が完走している。つまり問題は最初の一歩のところにあります。
唯一はっきり差が出たのが不安の低さでした。早期群 3.00 に対して終盤群 3.69。高不安(4〜5)の割合も 40% 対 56%。不安が高い生徒ほど後回しにした、という読み方は自然です。
ただし、この解釈には2つ注意が要ります。
| 1回目の提出時期 | 不安の平均 | 人数 |
|---|---|---|
| 〜8月24日 | 3.00 | 20 |
| 8月25日〜30日 | 3.93 | 44 |
| 8月31日以降 | 3.49 | 51 |
ひとつ。きれいな坂道になっていません。提出日と不安の相関は r = 0.10 で有意差なし。「不安が高いほど遅れる」のではなく、「不安が低い一部の生徒だけが早く動けた」という構造に見えます。
ふたつ。この不安は事後の回想です。振り返りシートで「実施前に不安がありましたか」と、レッスンが終わってから聞いています。うまくいった生徒は不安を低く思い出しやすい。実際、早期群は伝達実感も高い(3.70 対 3.26)ので、この交絡は無視できません。
したがって現時点では、「不安が着手を妨げた」は検証に値する仮説であって、確定した原因ではありません。ただし、終盤に動いた高不安の生徒54名が挙げた理由は「1対1で困ったときに助けがない」が24名(44%)で突出しており、仮説を支持する材料はあります。冬休みの課題で、実施前に不安を聞けば決着します。
直すべきは生徒ではなく、課題の設計。教員の負担を増やさない4案。
いずれも次回の課題からそのまま使えます。全部を一度に変えると何が効いたか分からなくなるので、採るのは1〜2案に絞るのが得策です。
根拠:初めての探究課題で、どこまでやれば十分かの基準がなかった。
モデルエッセイに加えて「この水準なら合格」「これでは不足」の実例を2〜3本並べる。今回の123名の記述がそのまま使えます。完成品のモデルより、同級生の実物のほうが「自分にもできそうだ」に直結します。
根拠:リサーチ・課題選定・原因分析・解決策・英語発表・反論対応を一度に要求していた。
冬休みに入る前に「講師の国の課題を1つ、1文で書く」だけ。年内に「解決策を3行で」。年明けに本番。前の段階の成果物が次の材料になるので、生徒の総作業量は増えません。締切が複数あればTeamsが自動でリマインドを出すため、教員の追加作業もほぼ不要です。
根拠:自信は伸びたが、内容の質は2回目でも変わらなかった。
「2回やったら満点」だと、とりあえず25分しゃべって終わる生徒が増えます。1回目で指摘された点を2回目でどう直したかに配点する。振り返りシートに「指摘されて答えられなかったこと」の欄を1つ足すだけで成立します。
根拠:やる前に価値が見えない課題では、外的なきっかけの設計が有効。
ポイントやバッジより効きそうなのは進捗の可視化です。「A組 12/44 完了」というクラス別カウンターが休み中に見えるだけで、生徒の「みんなやってないんじゃないか」という推測を崩せます。校内にはEnglish QuestやGreen World LMSの蓄積があり、仕組みは流用できます。
同じ生徒に同じ形式で出せる。設計を変えた効果が、そのまま測れる。
問題集は「やることが明確で、終わりが見え、採点基準が自明」という条件を全部そろえています。今回の課題はそのどれも持っていませんでした。それでも123名が取り組み、不安が有意に下がり、暗記型の課題では絶対に起きない学びが生まれています。そして「勉強より楽しい」という言葉が出てきました。普段の授業では、まず聞かない言葉です。
この課題の最大の成果は、
提出率でも、不安の数値でもない。
生徒が、自分の英語の何が足りないかを
自分の言葉で語り始めたことです。
「日本語で考えてから英語に変換するスピードが遅い」「複雑な構文を使いすぎて聞き直された」「原稿を思い出そうとすると逆に詰まる」。これらは教員が指摘しても入っていかない種類の自己認識です。一度こういう経験をした生徒は、普段の授業の受け方が変わります。文法演習が何のためにあるのかを、自分の必要から理解するからです。
2学期と冬休みにも同種の課題を予定しています。つまりこれは単発の実施記録ではなく、次の設計にすぐ使える中間報告です。しかも次回は同じ生徒に、同じ形式で出せます。学年が変われば「集団が違うから」で説明がついてしまいますが、同一集団なら提出率が動いた分は設計の効果です。今回見つかった仮説は、来年度ではなく3か月後に検証できます。
2学期中に決めること
冬休みの課題設計
測定